2006年07月09日

マンガに起こっている、興味深い「ジャンルのねじれ」(?)

 今年の01月14日のこのブログで、「女子だから、少女マンガ?」というタイトルで、

「いまは、たとえば『少年ジャンプ』など、『少年マンガ』といいつつ、読者の半分近く(←ここは、うろ覚えでおそらく正確ではないと思う)が女子だったりするし、いまの10〜20代のマンガ好き女子は、必ずしも「女子だから少女マンガ」じゃなくて、少女マンガはたくさんある選択肢の一つになってるんだろうな〜」

なんてことを書いたことがあります。


 先日の日本マンガ学会の新潟大会で、2日目のシンポジウム「見えないマンガ・語られないマンガ」の「萌え系/キャラマンガ」(座長・伊藤剛氏)を聴いていて、改めて面白いなーと思ったのが、前にも書きましたが、スピーカーの一人・まんが情報誌『ぱふ』編集長の竹内哲夫氏がおっしゃった、

「女性が描いて、主に女性読者が熱く支持する、少年が主人公のマンガ」

という表現でした。
代表的なのは、峰倉かずやさんの『最遊記』でしょうか。


こういう作品群は、一番熱気があるのに、一番「語られてない」のでは、という指摘はとても重要な気がしましたが、同時に、「女性が描いて、主に女性読者が支持」してるのに、主人公が「少年」、というある種のねじれが面白いなー、と思いました。

反対に、「主に男性が描いて、主に男性読者が熱く支持する、少女が主人公のマンガ」も、いまやいろんな雑誌にたくさん掲載されています。
少女が主人公、というか、「美少女が主人公」、と言った方が正確かなあ。
ま、それを言ったら、女性向けも、「美少年が主人公」となるわけですが(まあ、娯楽ですから!!)。


マンガ好きだとたくさんの作品に接するうちになんとなく慣れてしまって、こういう「女性読者の支持する作品の主人公が、男性」「男性読者の支持する作品の主人公が、女性」、みたいな、ある種の「ねじれ」現象って、なんとなく当たり前のように思っちゃって、わざわざ「不思議だな」とか感じなくなりがちです。かく言う私も、ややその傾向が。


でも、たとえば「少女にウケるのは、少女が感情移入しやすい、自分に近い少女が主人公のマンガ」って古典的な考えを持ってる人とか、あるいは単純に、あまりマンガというジャンルに馴染みがない人が、ちょっと離れてマンガというジャンルを眺めてみると、「何故、そんな現象が?」「不思議だなー」って思うポイントじゃないでしょうか。

これは、改めて考えてみるとなかなか面白い現象だよなぁ、と思いました。


単純に考えれば、「理想の異性」としての主人公達、ってことになるんだけど、きっと同時に、(自分の読者としての体験を振り返ると)異性という設定の主人公達に、読者は「自己同一化」はしないけど「感情移入」をして読んでる部分もあるような気がして(もちろん作品や描き方にもよりますが)、そのあたり、「読んでるときに起こること」って、とても個人的な体験でなかなか言葉にしづらいんだけど、面白いことがいろいろあるように思います。


あと、同じくスピーカーの一人、「月刊COMICゼロサム」「月刊ComicREX」の編集長の杉野庸介氏が、

「『ゼロサム』は、男性向・女性向のどちらかを前面に出していない。流通上の理由で、どちらかにして欲しい、ということは言われるけれど…」

という意味の発言をなさっていたのも、現場の方の証言として、とても興味深かったです。
たしかに、『ゼロサム』掲載の高河ゆんさんの『LOVELESS』など、男性読者も多そうですし、掲載作品が舞台設定がファンタジー的な作品が多そうなこともあり、読者が「男性か女性か」、というよりはむしろ「趣味」性(コアというか、マニアックな読者)が核になって読者が決まる雑誌、というような印象を受けます。


…あ、でも、いま検索してみたら、『ゼロサム』、執筆陣は女性作家が多そうかな?
http://www.ichijinsha.co.jp/zerosum/


私はかなり幅の狭い読者で、ファンタジー系が小説・マンガともに何故か苦手(どうも、ファンタジーを楽しむ『ファンタジー脳』がインストールされてないようです…)な傾向があり、いま勢いがあって、ティーンエイジャーの読者に熱く支持されてる(しかし、「言葉」で語られることは少ない)マンガについては全然詳しくないのですが、そのジャンルのバリバリの現役編集者の方の意見が伺えたのも貴重な体験だったし、そういったジャンルを「ちょっと外側から眺めてみる」体験ができたのもよかった。
たくさん刺激を受けました。

やっぱり、実り多き新潟の大会だったな、と改めて思います。



過去日記「女子だから、少女マンガ?」は、こちら↓
http://mangalove.seesaa.net/archives/20060114.html
posted by 川原和子 at 16:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大会当日は時間の関係で質疑の時間がなかったので、後ほど杉野さんに「けっきょくゼロサムは女性誌、男性誌どちらで登録してらっしゃるのですか?」と、抜かり無く質問しておきましたよ〜。

と「女性誌です。どっちでもよかったんですが、発売日の関係でそっちが都合がよかったので」とのこと。また、作家陣は女性が多いこと、編集者の割合は半々、全8人のうち、4人が男性4人が女性だということも確認しました。

今や少女が一番読む雑誌は『少年ジャンプ』だということですし、おもしろい現象ですよね〜。
Posted by ヤマダトモコ at 2006年07月09日 22:45
>ヤマダトモコさま
コメントありがとうございます!

> 後ほど杉野さんに「けっきょくゼロサムは女性誌、男性誌どちらで登
>録してらっしゃるのですか?」と、抜かり無く質問しておきましたよ〜。

おおっ!!
まさに「抜かり無く」ですね!!
すばらしい!!

> と「女性誌です。どっちでもよかったんですが、発売日の関係でそっち
> が都合がよかったので」とのこと。また、作家陣は女性が多いこと、編
> 集者の割合は半々、全8人のうち、4人が男性4人が女性だということも
> 確認しました。

やはり女性誌なんですね。
編集者の方の半分が女性、というのは、女性がかなり多い印象ですね。


>今や少女が一番読む雑誌は『少年ジャンプ』だということですし、おもしろい現象ですよね〜。

ホントに、興味深いなあ、と思ってます。
「少年誌」というくくりの雑誌も、大人が通勤電車で読んでたり、女性読者がかなり多かったり、と、実際の読者の年齢層や性別の実態とは、実はあまり関係ないものになっているのかもしれませんねー。
Posted by かわはら at 2006年07月10日 06:06
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