2007年03月02日

「マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」

みなさま、「やおい」と呼ばれるジャンルをご存じでしょうか?
…って、ネットの片隅にあるわたくしのブログをわざわざ見に来て下さる方には、説明は不要かもしれませんが、念のため。

やおいとは、男同士の恋愛をテーマにした、女性向けのマンガや小説作品のこと。
ボーイズラブ(BL)、JUNE等と呼ばれることもあります。

そのジャンルに馴染みのある人には説明するまでもないと思いますが、知らない人には

「なんでまた、男同士のラブストーリーを、女の人が楽しむの??」

という疑問をもたれがちなジャンルでもあります。


この分野に関しては、直木賞作家・三浦しをんさんが、『シュミじゃないんだ』(新書館)という本で、ボーイズラブと呼ばれるマンガに関して熱く語っておられ、私もかつての日記でとりあげさせていただきました。
★2006年11月01日の日記
「三浦しをん『シュミじゃないんだ』発売!!」
http://mangalove.seesaa.net/article/26594141.html


一方、学問の分野でも、やおいについてさまざまな論考がなされるようになっています。
そんな中、やおいにとっては大変重要でありながら、その対象の膨大さから、なかなか語るのが大変なマンガ同人誌を主題とした力作が登場しました!!
ジャーンジャーン(←ドラの音)。

それが、金田淳子氏による「マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」です(『文化の社会学』佐藤健二・吉見俊哉[編]、有斐閣)。


この論考が納められている本の書名が『文化の社会学』であるとおり、学問分野にはうとい私には聞き慣れぬ用語がしばしば用いられています。
にもかかわらず、文意が大変伝わりやすく、読み進めていくなかで、同人誌というものをどのように位置づけるのか、どのような意味があるのか、ということに関して明晰な言葉が与えられていくさまに、刺激を受けます!!受けまくります!!(←ホントにわかってんのか、というわたくしへのツッコミはこの際、おいておいてください!!ええ、そのへんの棚の上にでも!!)


内容は1〜4に分かれていますが、「1 同人誌という領域」では、これまでのやおい論の先行研究を検討し、論調の変化にもふれています。
巻末の引用・参照文献一覧とあわせて、やおい論を概観したい人には必読だと思います。


私個人としては、「2 表現のなかの交渉」における、やおい同人誌は、「女性だけの解釈共同体」である、という指摘には、

「解釈共同体!おお、なんと実感そのものの言葉…!!」

と感動しました。
また(以下引用)、

> やおい論のなかには、やおいを性からの逃避、あるいは
> 女性嫌悪とみなすものがあった。しかし厳密にみれば、
> やおいにおいて回避されているのは、性や女らしさでは
> なく、女性を性的対象としてみる(性的対象としてしか
> みない)まなざしではないだろうか。(p.177)

という指摘には、ちょうど今アレコレ考えていた部分に答えをもらったようで、思わず膝を打ちました。
な〜る〜ほ〜ど〜!!
というかんじです。


「3 同人たちの市場」では、場を共有しない人には伝わりにくい、同人誌という市場の価値観を浮かび上がらせ、
「4 見えない彼女たち」では、「解釈共同体」である同人(おたく)女性たちが、その趣味を共有しない人に対してはおたくであることを明かさず、また、おたくっぽく見えないように気をつかっている、その構造自体について言及しています。


全編、先行研究をふまえつつ、「今」の問題をすくいあげている、意欲的な論考だと思います。
学問の言葉で書かれているのですが、
面白くってためになる!…という講談社のキャッチフレーズが脳裏によぎる、たいへん刺激的かつ面白いこの文章。


やおい、BL論分野に興味がある方には、強力にオススメいたします!!

『文化の社会学』
http://www.bk1.co.jp/product/2760277
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/31852264
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=R0197677
※amazonは在庫切れみたいです。むむむ。amazonも再入荷したようです!!スバラシイ!!


★★★★★お詫びと訂正★★★★★

※あ、あのう……(もじもじしつつ)
すいません、間違えました。
第二段落、

>やおいとは、男同士の恋愛をテーマにした、女性向けのマンガや小説作品のこと。
>ボーズラブ(BL)、JUNE等と呼ばれることもあります。

ってなってますが……
誰が呼んだか、ボーズラブ。
って、誰も呼んでねえ〜!!
呼ばれてねえ〜!!


いや、ないこともないのですよ、ボーズラブ。
樹生かなめ先生の『極楽浄土はどこにある』とか…



…って、そういう話じゃありません!!


ボーズラブ→ボーイズラブ
に、(3/3に)「ギャー!」と叫びつつ…謹んで訂正させていただきました。


ちなみにこのミスを教えていただいた方には、

「大奥第二巻になっております。」

とのステキなご指摘を受けました……。
テヘッ★(ミスを笑ってごまかしてみる)
…ホントに……申し訳ありませんでした……。
posted by 川原和子 at 23:47| Comment(8) | TrackBack(3) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
川原こころの幹事長、このようなマンガ愛の劇場の場で、拙論文をおホメくださりありがとうございます。
正直、すごいはしょりぶりだ!そしてそれが何か?…という論考なんですが(さらにこの程度の論考なのに、私の原稿の遅さのために死者るいるい)(太川陽介じゃないよ)(嫌な汗)、
「まぁがんばったな感」とかを感じ取っていただけたようで、励みになります。
この原稿を踏み台に、幹事長をはじめさまざまな腐女子腐兄の方々が少しでも高みに上がっていっていただければ…と願ってやまないそれがしです。
川原…俺を踏み台にしたアー!?と叫ぶ日を楽しみにしてますよ!
Posted by 金田淳子 at 2007年03月03日 00:37
連投ですみません。
どうでもいいんですが、この『文化の社会学』、
私の手元には(著者分として2冊もらえるはずなのですが)
1冊も届いてません…
(だから他の著者の原稿をまだ読めてない)

引越ししたから転送に時間がかかるのはわかるのですが…
なんと、その後に発送されたはずのもののほうが先に着いてます…

ザ☆郵便☆事故
Posted by 金田淳子 at 2007年03月03日 00:53
>金田さま
おおっ、ご本人のコメント、痛み入ります…!!


充実した論考、本当にお疲れさまでした!

いや、今回拝読して、学問世界の成果である概念を導入することで、同人界で行われていることに対して、新たな視点から評価がなされていることに、すごく刺激を受けました。
個人的には、
これが「学問力(がくもんぢから)」というものか…!!(トミノ台詞)
という感じでしたぞ!


> この原稿を踏み台に、幹事長をはじめさまざまな腐女子
> 腐兄の方々が少しでも高みに上がっていっていただけれ
> ば…と願ってやまないそれがしです。

学問界のことはよくわからぬながらも、誰かの提出した論考がやがて「前提」となり、「前提を共有する」ことによって、成果が蓄積されていくのでは、と推測いたします。

この論考の成果を共有することによって、やおい論が更に先へ進むのかも、と思うと、ワクワクします。
さらなるご活躍を期待しつつ、今回の成果によってさまざまな視点を与えて下さったことに心より感謝いたします。
Posted by 川原和子 at 2007年03月03日 01:30
「極楽浄土はここにある!」と指摘すべきだったと未熟さに悔しさいっぱいです。

それにしても金田さまも川原さまもご実体はぜんぜん腐ってない凛々しくすてきな現代女性なのですよ、みなさん!!(とネットの海に叫ぶ老女)
Posted by moyo at 2007年03月03日 10:09
>moyoさま
仏罰がくだりそうな間違い(ボーズラブって…)を、粋にご指摘いただき感謝です!!

> 金田さまも川原さまもご実体はぜんぜん腐ってない凛々
> しくすてきな現代女性なのですよ、みなさん!!(とネ
> ットの海に叫ぶ老女)

いや〜、わたくしの場合、「ステキに腐る」ことをひそかに心の目標としてるんですが、なかなか難しいですねー。
なんかこう、ワインみたいな(どんなや)、いい腐り方をしたいのですが、単に腐敗してるだけのような…。
しょ、精進いたします!!

moyoさんこそ、たくさんの役割と物事をさっそうと手早くこなすスーパーウーマンですよ!!
おまけに趣味も広いし、それでいて極め方も深いし。
尊敬しております。
Posted by 川原和子 at 2007年03月04日 07:16
>「ステキに腐る」

それはすばらしい人生の目標ですね!
美しく老いる、という言葉もありますが、素敵に腐る、はっ、それが「貴腐人」になるということ……いや、「貴腐ワイン」になるということ?あれ……?

後段については、川原さんのお優しい目による過大評価ですが、その虚像を実像に近づけるべく精進したいと思います。

そもそも金田先生の文章をまだ読んでいないのにこんなところにコメントしてる事自体どうかと思います……申し訳ございません。
Posted by moyo at 2007年03月04日 08:10
ようやくこの本についての文章を書きましたので、TB張らせていただきました。私は「やおい同人女性の見た目は普通」→「じゃあいかにもおたくっぽい外見の人はどうなの?」というところに注目しましたが、「女性にとっての意義」もすっごく大切なところだな、と思っています。女性は男性のまなざしに必然的にさらされますしね。それは幹事長の「あたしは胸のおまけなの?」にも通じてくる話です。また最近は男性もまた性的なまなざしにさらされるようになってきていますが、その時男性はどう対応するか、という問題にもつながってくると思うのですね。
この本で提示されたことを土台に、いろいろ議論が始まればいいなぁ、と思っていますよ。
Posted by 吉本たいまつ at 2007年04月27日 23:25
>吉本たいまつさま
トラックバック、ありがとうございます。
私の方は、いまだにトラックバック、とばせたりとばせなかったり、というあいかわらずの電脳高齢者ぶりでございます…。
もうちょっと、電脳自由自在な人になりたいです。
Posted by 川原和子 at 2007年04月28日 00:00
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