男の人はね、お前は早く一人前になって金を稼いで妻子を養えといわれる、それ以外の抑圧ってないんですよ。一本道なんです。
(中略)
でも女の人は、親から受ける抑圧でさえ一本道ではない。おしゃれにあまりにも興味がないとどうしたのかと言われ、あまりにおしゃれにとち狂っているともうちょっとなんとかしろと言われ。途中までは勉強しろと言うものの、東大にまでは行かなくていいと言われたり。
親と親戚の人が言うことが違っていたりするし、周囲の言うことを全部聞いていると、女の子は頭がおかしくなっちゃうんですよ。どうしたらいいのかわからくなってしまう。
だから、女の子は人によって萌えポイント、つまり抑圧のポイントがみんな違うんですよね。抑圧ポイントがたくさんあるからこそ、女の子はものを考える機会がたくさんあるんだと思います。
よしながふみ×三浦しをんロング・ロング対談 『マンガ・エロティクスf』44号(p.132)
うーん、よしながふみさんの対談は、どれも必ず発見や刺激があって読むのが楽しみなのですが、いま発売中の『マンガ・エロティクスf』44号の三浦しをんさんとの対談も、やっぱり面白い。
上↑に引用した部分を読んで、「あー、そうなんですよねー」と思った。
女の人には、ある一定の年齢以上になると、どーも「異性に愛される」という暗黙の、とても重要な仕事が課せられるみたいッス。
男の人にとっては、できればできるほどほめられ、認められる社会的な「仕事」も、女の人の場合は、なにかが(たとえば勉強が、仕事が)「できすぎる」と、「異性に愛される」という重要な「暗黙のお仕事」と、しばしば衝突し、矛盾してしまう。
たとえ仕事ができても、恋人とかパートナーのいない女の人は、
「でも女としてはなにか足りない」
って自問したり、
「女として幸せじゃないよね」
と言われてしまったりする。
これが男の人で、ばりばり仕事をして評価され、たくさんお金をかせいでいたら、
「でも男として何か足りない、男として幸せじゃない」
なんて、自問しないんじゃないかな、と思います。
男にとっては、「仕事ができる」ことはストレートに「魅力」として異性に認められるプラスポイントになると思います。
そこは、男女が非対称な部分じゃないかな、と。
女の人に出されるメッセージって、ざっくり言うと、
「勝ちすぎないように勝ちなさい」
っていうなんだかムズカシーもののように感じます。
キレイに、おしゃれに、お仕事もできるようになりなさい。
でも、男の人をひかせない程度にね。
もちろん、まわりにも嫌われないように。
言語化すると、そんなかんじ。
ムズカシーですよね。コレ。
めんどくさいというか。
よしながさんは、
女の子がいわゆる女の子としてのスタンダードな道を行くというのは、男の子の比じゃないくらい困難なんですよ、実は。そこそこにいい学校に行って、そこそこにいい会社へ入って、そこそこにいい男を見つけて、そこそこの時期に退職して子どもを生んで、というのは実はとても難しい。
(同対談p.133)
とおっしゃってますが、激しく同意、です。
なんだか……なんというか、女の人は、「周りとの関係で決めなくちゃいけないこと」が、とっても多い気がします。
うっかり周りの空気を読まずに自分の思う通りにふるまうと、たちまち「フツーの枠」からはみ出してしまう。
「フツーの枠」を守ることも、女の人が生きる上で、とっても(もしかしたらもっとも)大事な、お作法。
これを守るのはメンドくさいんだけど、守らないと周囲と軋轢が起こってもっと大変なので、なるべく守るわけです。
生きる知恵として。
なんかねー、枠が、目に見えないのに確実にある枠が、何重にもまわりをとりかこんでる。
そんなかんじです。
なんとなく形成されている「フツーの枠」を読みながら、そこから逸脱しないように注意深く、やりたいことをやっていく。
たぶん、それが女子のスタンダードなあり方なんだと思います。
よしながさんの発言を読むと、
あーよしながさんたら、そんなホントのことを言っちゃってもう!!
と思ってしまいます(笑)。
いえ、もちろん言ってくださって、嬉しいんですけど。
★★★★★
それでも。
それでも、日本の女の人は、少しづつでも、生きやすくなっていってる、と思いたいです。
少なくとも、
「女は若くなきゃ価値がない」
「女は若い方がエライ」
っていう価値観を、おおっぴらに言うのはマズいことだ、という認識が、たとえば30年前よりずっと広まったこと。
たとえそう言う声が小さくなっただけで、消えてるわけでは全然ないとしても。
「それはマズい発言」だという認識がある程度共有されただけでも、とても大事で、尊いことだと思うので。
最近、文章やテレビで、30年くらい前の女の人が結婚して早々に仕事を辞めていたのは、「女は20代で結婚して子どもを産むのが幸せ」っていう強い風潮があったからだけではなくて、実際に女子早期定年制度がある会社もあった(!!)、そしてその「女子の定年」は35才とかだった(!!!)と知って、驚愕しました。
えええええ!!
いや、無知をさらすようで恐縮です。
でも、知りませんでした。
すごいなぁそれ(もちろん、すべての会社じゃないでしょうが)。
それにしても、それって本当に本当に、女の人は結婚しないと「社会に居場所がなかった」ってことですよね。
そりゃ結婚するわ。
いまの社会には、表向き、さすがにそこまでの露骨な男女差別はないけれど、でもある意味では男女問わず、
「若い方がエライ」
という風潮は、どんどん強まっているように感じます。
新しいテクノロジーやメディア(パソコンとか)がどんどん登場する社会は、その新しいしくみに順応する力が大事になってくる。
となれば、トーゼン、基本的には、それは若く柔軟な人の方にかなり有利になるわけです。
それは「経験」があまり意味をもたない社会になるだろうし、新たな課題が日々生まれてくる社会でもあります。
たとえば、いま育児をする人には「子どもに何歳からケータイをもたせるか」なんて、我々の子供時代にはなかった悩みも出てくるわけです。
その問題に対しては、親世代の育児経験は、直接的には役に立たなくなってしまう。
便利さが増えたぶん、問題も、複雑化しているなぁと思います。
★★★
そして、外見の若さを重んじる風潮も強まりました。
「アンチ・エイジング」という言葉も、さまざまなところで見かけるし、「若く見える」というのは世代を問わないホメ言葉です。
そのこと自体はもう止めようのない流れだと思うし、すべてマズいと思っているわけでもないのです。
ただ、かつて当たり前のように言われていた(共有されていた)
「女は若くなきゃ価値がない」
という価値観って、いま改めて考えてみると、すごい考え方だ、と思います。
だって、それはつまり、
「日一日と、あなたは生きていくことで、どんどん価値のない人になっていってるんですよ」
て言われてるってことで、
生きていく上で万人が通る「としをとる」こと、
つまり、
生きることそのものを、まったく祝福されていない、ってことです。
ひ、酷い。
でも
「そんなの酷い!」
って正面から怒ることも、女の人は(特に、少なくとも1970年前後生まれ以降は)あまりしない人が多いように感じます。
私も、なるべくしたくない。
人生はなるべく機嫌よく生きたいし、それに、そんなこと言い出したらしょっちゅう怒ってなくちゃいけないから。
卑怯かもしれないけど、自分を自分で守ることが必要だから。
でも一番の理由はひょっとすると、
「酷い」って怒ること自体が、<「フツーの枠」からはみ出る>こと
だからかも。
<「フツーの枠」からはみ出る>ことこそが、日本で女の人が生きていくうえで囲まれる何重もの「見えない枠」のなかで、「おかすと生きにくくなる、最大のルール」なのかもしれないなあ、と思います。
★★★
ただ、よのなかがどんどん、「若さ至上主義」っぽくなっていくことは、結果としてすべての人を生きにくくしてしまうのかも、とも思います。
だって、繰り返しになるけれど、としをとらない人はいない。
誕生日が訪れるたび、ひとつとしをとること。
それは、すべての人間に平等に訪れる現象なのだから。
それを基本的に肯定して祝福できない社会って、やっぱりかなり厳しいよなぁ、と思うのです。
なんか話がズレまくっておりますが、連想で、そんなことを考えたりもした対談でした。
色々な経験をして、年食って、スーパーおばあちゃんになることが、若さに勝つ秘訣?
>女は一本道じゃないから、色々できるってこともあるんじゃないかな。
これはホントにそうですねー。
今回とりあげた、よしなが・三浦対談の最後で、お二人が、
「男の人は一本道であるところが、男の人を不自由にしてるところもあるよね」
という意味のことをおっしゃってて、共感しました。
youmeiさんがおっしゃってる部分ともつながってるんじゃないかな、と思います。
>そのためには、何歳になっても目標をみつけて、ぼんやりしてな
>いことが大切だと思います。
そうですねー。
でもホラ、私なんか、もう既に、電脳高齢者だから…。
もう落ちこぼれかけてるから…。
ケータイメール、打ったことないから…(←言いながらどんどん、ヨボヨボしたかんじに)。
やさしく親切な知り合いの電脳介護のおかげで、どーにかこーにかやっておりますワイ…。
youmeiさんは、HPでショップまで開店されてて、ホントにすごいですよね〜〜!!
まぶしく仰ぎ見ております。
こんなのを真に受けてたらそりゃあ馬鹿にもされるよ。
他人の苦労はその人にしかわからないです。
男の人生が一本道?決めつけているだけですね。
結局世間の目を気にした愚痴にしか聞こえません。
活字におこすと陳腐になりますよ。
>男の人生が一本道?決めつけているだけですね。
ジンボジョーンズさん、これは管理人さんが決め付けていることではなくて、よしながさんのインタビューから引用したことでしょ。んで、よしながさんも、社会的にこう見なさざるを得ない、と分析していることを淡々と述べているだけ。
なんで、
>結局世間の目を気にした愚痴にしか聞こえません。
活字におこすと陳腐になりますよ。
このエントリ、どう読めば愚痴に見えるんですか? 別に陳腐でもないし、社会現象を淡々と分析しているようにしか読めません。
抑圧の種類が多いだけ、女の方がまだ「そのどれだって自分らしくない!自分のことは自分で決める!!」と気づきやすいと思うし、今ではそこに気づいた、魅力的な女があちこちにいっぱいいる。これは、当人にとってもええことだし、女が好きな男(女でもいいが)にとってもいい女が増えることになるんだからええこっちゃないかと思います。
酷いときはあいつはホモやロリコンじゃないのかなんて根拠も無く言われたり。
だいたい、男だっていろんな人がいるわけで、それなのに等しく強要されるマッチョイズムの辛さはそれこそ女性には分からないでしょう。
女性でも、男性に対して男らしくないと言う人はいまだに多いですが、あれは女性に対して女らしく振舞えと言うのとどう違うんでしょうね?
男らしく女らしく振舞うことについての是非について細かく言う気はありませんが、女性だけが繊細な問題を抱えているような書き方にはどうも納得がいきません。
コメントしづらいエントリだったのでは、と思いますが、思いがけないコメントを複数いただき、驚いております。
ありがとうございます。
>ジンボジョーンズさま
私の力が足らず、中立な意見を言えてない印象の文章になっていたのかもしれません。
後出しジャンケンみたいで恐縮ですが、4月4日のエントリで、補足的な意見を書いておりますので、もしよろしかったらご覧になってみて下さい。
>toorisugariさま
>ゴルゴ31さんのリンクから飛んできました。
ありがとうございます。
ゴルゴ31さんから見に来てくださった方がたくさんいらして、驚いています。
>抑圧の種類が多いだけ、女の方がまだ「そのどれだって自分らし
>くない!自分のことは自分で決める!!」と気づきやすいと思う
>し、今ではそこに気づいた、魅力的な女があちこちにいっぱいいる。
あ、なんだか励まされる見方で、嬉しいです。
おっしゃるとおり、女の人は、抑圧の種類が多いから、いろんなことを考えざるを得ない、という部分はある気がします。
その大変さに押しつぶされないで、目に見えない枠のせいでなんか生きにくいナー、という部分を、できるなら改善したい。
よしなが・三浦対談に触発されて、そのために、まず、
「見えない枠を、言葉でなんとか見える形に浮かび上がらせてみる」
という無謀な試みについチャレンジしてしまったのですが、ていねいに意を汲んでくださったコメントを書き込んでいただき、感激しています。
>ユージンさま
男の人の大変さについては私も思うところがあり、4月4日のエントリにアップしております。
長文なので恐縮ですが、もしよろしかったらご覧になってみて下さい。