文化系トークラジオLifeトークイベント
西森路代プロデュース
「ドラマヒロイン進化論〜東京ラブストーリー・
赤名リカから失恋ショコラティエ・高橋紗栄子まで」
というイベントに登壇させていただきました。
http://www.kinokuniya.co.jp/c/store/Shinjuku-Main-Store/20140508110509.html
出演者は、
ライター・西森路代さん(今回の企画のプロデュースも!)、
少子化ジャーナリスト・白河桃子さん、
恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表清田隆之さん、
編集者・ライターの斎藤哲也さん、
そして川原の五名。
当日は、テレビドラマ「東京ラブストーリー」(1991)、
「やまとなでしこ」(2000)、
そして「失恋ショコラティエ」(2014)
という3作の、ヒロインと恋愛と仕事と結婚の変遷を比較することで
時代の変化を読み取りつつ議論を…、
ということでお話をさせていただき、
私は「東京ラブストーリー」と「失恋ショコラティエ」がマンガが原作、という
ことで
マンガ担当(笑)的ポジションで、トークに参加させていただきました。
なにしろ時間が1時間半と限られていたので、
あっという間に時間が過ぎて
用意していったことがしゃべりきれなかったりしたのですが、
以下、
当日紹介した記事の出典や、私の個人的雑感などを
おまけとしてここでメモ的に公開したいと思います〜
(ネタバレ含まれますので、ドラマを未視聴・マンガを未読の方、ご注意くださ
い)。
・トーク冒頭で紹介したコラムニスト中野翠氏の「スカーレットの法則」は、
『私の青空1991』(文春文庫 p.175所収。初出は朝日新聞)。
高視聴率をとったドラマ「東京ラブストーリー」を見た多くの女性視聴者は、勝
ち気でまっすぐな赤名リカ(演:鈴木保奈美)に強力な一体感をもち、しとや
かで湿っぽい関口さとみ(演:有森也美)を嫌った。
これは、「風と共に去りぬ」を見て、おとなしいメラニーに近い性格の女であっ
ても奔放なスカーレットに感情移入する「スカーレットの法則」ではないか。
多くの女性たちは、リカを応援しても、現実にはさとみのような「わかりやすい
女らしさ」を演じているのでは…?という指摘。
面白いのは、中野さんはリカとカンチが別れるラストを「さわやかなハッピーエ
ンドだと思った」と書かれていること。
「『根が、さとみ』の女の子たちには大不満だったようだ」とも。
↓
・たしかに、リカにとってカンチは通過点にしかなりえない存在に見える。だっ
て人としてのパワー、排気量が違いすぎる…!別れは必然でしょう。
別れも断然、リカ主導だし。
でも、91年の段階で、ヒロインが恋人と別れる展開を「ハッピーエンド」と喝破
した中野さんはすごい。
・ドラマ「東京ラブストーリー」では、原作よりもさらにリカとさとみをわかり
やすく対称的キャラにしている。
リカはボブ+パンツスタイルで颯爽と、さとみはロングソバージュ+ロングス
カートと服装も対称的。
リカはカンチが部屋に来たとき、わざとカップラーメンしか出さない(=料理は
できるが、手料理で男をつるのを潔しとしない)。
対するさとみは図らずも(リカとカンチの仲が瀬戸際のときに)おでんを手作り
してカンチのところに持って行くのだ!
・原作「東京ラブストーリー」を描いた意図について
作者の柴門ふみ氏は文春文庫版『東京ラブストーリー』の下巻(2010)収録の鈴
木保奈美との対談で、
「漫画家を十数年やっていて、どうしても男女ともに受け入れられるラブストー
リーが描けなかった」
ために、戦略で描いた話だと言う。
「それで、男女を網羅したラブストーリーを描こうと思ったわけです。
(略)とにかくそうやって、リカが嫌いな人はさとみを好きになり、三上を嫌いな人は
完治を好きになり……あらゆる読者をキャッチできるという。」
(p.438)
大ヒット作を連発したマンガ家・柴門さんの、とても興味深い証言。
複数ある文庫版のおまけ的に収録されたもので意外と見落とされがちかも、と思うので、記録的な意味も込めて、ここにメモ。
以下、川原雑感。
・「東京ラブストーリー」は一貫して、ほとんど「お金の話」をしない(好景気
ゆえ?)。
・「やまとなでしこ」のヒロイン・桜子(演じるは松嶋菜々子)は、貧乏育ちゆ
えに「私は貧乏が嫌いです」と言い切り、お金持ちとの結婚による階層上昇
をめざす…という思い切った設定。
・「失恋ショコラティエ」では、ここ数年の女性誌が「モテ」「愛され」と連呼
し啓蒙してきたテクを体現したような「女子プロ」・サエコが颯太に熱烈に愛
される…が、物語初盤であっさり他の男と結婚。
が、颯太には片想いされ続ける→明確に「結婚はゴールではない」ことを見据えた。
・原作の水城せとな氏は、他の作品でも、美麗な絵柄で「愛という美しい名で呼
ばれるもののドロドロした内側を丹念に暴く」ような作風。
【参考】水城せとな「黒薔薇アリス」評
http://www.nttpub.co.jp/webnttpub/contents/comic/068.html
・原作マンガ「失恋ショコラティエ」も、ある意味で、愛に関する、ライトな
「女の不幸の展示会」の趣も?
△昔の少女マンガならヒロインになれる優等生タイプの薫子は、自分の気持ちを
直視できず、モラル的正しさを周囲にぶつけては自分に跳ね返り、傷つき損を
している不器用な「痛さ」が描かれる。
△恵まれた容姿のモデルの「えれな」は、「あたしの仕事は女の子受けすること
だから」と、「男に受けることと女に受けることは違う」「女に受けても、モ
テない」ことに自覚的。実際片想いは、うまくいかない。
△サエコは、夫に所有物のように扱われ、DVを受ける。颯太には妖精&創造の
ミューズ扱いされているが、それ故、生身の女として未来を一緒に生きよう、
とリアルには踏み込まれない。「有り余る女子力」がありながら、内実はあまり
幸せそうではない?
・ただ、水城氏は、「失恋ショコラティエ」を「ふつうのお話」と考えている
(単行本4巻「作者からのメッセージ」)。
「少女漫画としては変わり種扱いにされがちですが、現実にはどれもふつうの
話」だと。
おそらくサエコのことも、水城さん的には「コミュニケーションを大事にしてい
る、ふつうの女の人」として描いておられる。
★★★
今期は、若者の恋愛ドラマがない(!)そうなのですが、
ここまでいろんなこと(=恋愛と呼ばれるものの実相)を「暴かれ」てしまい、
経済も好調とは言えない現在、
「甘いファンタジーとしての恋愛」は描きにくいのかもしれないな…と改めて感じました。