2009年08月03日

【腐ネタ】名言。

本日は一部の方向けネタでスイマセン…。


えー、やおいとかBL好きの女子を「腐女子」と呼びますが、
『妄想乙女通信R』という本のなかに
こんな名言が。


腐女子としてのステージがアップしない(?)ことに悩む女子が
腐女子の「師匠」に悩みを相談するのですが、
「師匠」の御言葉に対して
なんだか「普通」な返答をする女子に落胆した師匠は、
内心、つぶやきます。



「あたしの見込み違いだった…?」

「磨けば腐る腐女子の原石だと思ったのに」

     「みんなで腐れば怖くない その2」さざなみしき(『妄想乙女通信R』乙女☆妄想族・編 所収 光文社 2009 p.131)




……「磨けば光る」じゃなくて

「磨けば腐る」(ホメ言葉)

っていうのがスバラシイです
(この「師匠」が、
某有名演劇マンガの「先生」をホーフツとさせるところも……ゲフンゲフン)。

妄想乙女通信R (kobunsha BLコミックシリーズ)


尚、この本(アンソロジー)には、
先日のエントリ
●ウィング関先生のペンネームの由来って
http://mangalove.seesaa.net/article/124686917.html
で重大な示唆を下さったステキ腐女子の方も
「21世紀型腐女子のたしなみ」
とゆー作品を描かれています。

「リーマン・ブラザーズが野村を買収!」
という衝撃的なニュースなどが題材ですが
こういうニュースも貴腐人にかかれば……
というお話。

いや、これ以上はぜひ、
(ご興味と理解のある方は)
ご自分の目で確かめてください!!



(あっ、超★経済オンチの私も、
「リーマン・ブラザーズ」という社名には、

いろいろ思うところ
ありましたYO…!!←半分私信)

★★★
広大なBL宇宙のなかから

偏った好みに基づいてセレクトした10名の作家について
熱く書きおろした章も収録!!

そんな拙著も
よろしかったらぜひ、
ご覧下さい。

人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた
posted by 川原和子 at 08:05| Comment(2) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月18日

…オチなの?

 11月の初め頃、中野の某書店店頭で、
とある傾向の雑誌が、
こんな感じの並べ方をされてるのを目撃しました。

MAGAZINE BE×BOY (マガジンビーボーイ) 2007年 11月号 [雑誌] 花音 2007年 11月号 [雑誌] Dear+ (ディアプラス) 2007年 11月号 [雑誌]

コミック AQUA (アクア) 2007年 12月号 [雑誌] コミック June (ジュネ) 2007年 12月号 [雑誌] HertZ VOL.22 (22) (ミリオンコミックス) (ミリオンコミックス)

麗人 2007年 11月号 [雑誌] Daria (ダリア) 2007年 12月号 [雑誌] 月刊 IKKI (イッキ) 2007年 12月号 [雑誌]




……えーと、
右下の、
月刊『IKKI』は……「オチ」なんでしょうか……。

すいません。
ウケました。
posted by 川原和子 at 00:58| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月16日

明日からコミケ/『サルまん2.0』では「やおい、腐女子」ネタ

 知ってる方には言わずもがなですが、明日から三日間、夏のコミックマーケットが開催されます。

こんな記事↓も。


世界最大のマンガの祭典 今年の注目は腐女子
http://www.mainichi-msn.co.jp/tokusyu/everyone/news/20070816mog00m040002000c.html



こ、「今年の注目は腐女子」なのですか……??


★★★★★
そして、竹熊健太郎氏の「たけくまメモ」」では、次の『サルまん2.0』では「やおい、腐女子」ネタを取り上げる、という企画がばば〜んと公表されました!!

2007/08/14
●腐女子の先生
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_f9c7.html


2007/08/15
●サルまんで「やおい」といえば
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_11eb.html


★★★
 「腐女子の先生」で言及されている金田淳子氏は、エントリ内でも紹介されているように、ユリイカ臨時増刊号の『腐女子マンガ大系』のコーディネートをなさった方です。


実は私も以前からおつきあいさせていただいていますが、この金田さん、社会学者であり、キュートな女子であると同時に、ものすごく濃い腐女子であり、しかもしゃべりが抜群に面白い方です。

そのしゃべりのすばらしさの一端は、『腐女子マンガ大系』の三浦しをんさんとの対談でもかいま見られますので、未読でこのジャンルにご興味のある方は、ぜひご覧になってみて下さい。

この対談の「男の乳首」をめぐる対話には、感銘を受けた人続出で、私の元にも、知り合いの大学講師の50代男性から、


男性の乳首をめぐる話に感心しました。
そうかあ、と思いました。」


というメールをいただいておりまする………。



 いや、真面目な話(?)、この対談からも、わかる方には充分伝わると思いますが、金田淳子さんはやおいを心から愛しつつ、さまざまな角度からやおいを語ることのできる見識をもったスゴい方です。
シャープな分析力をはじめとするきらめく才能をもちながらも、腰が低くてフレンドリー。
現在も、一ボランティアスタッフとしてコミケに参加されているところからもそのお人柄の一端は伝わるのでは…と思います。


『腐女子マンガ大系』では残念ながら金田さんご自身の論考が掲載されていないのが惜しまれますが、やおい分野に言及した入手しやすいお仕事としては、

『ユリイカ2006年 1月号 特集・マンガ批評の最前線』

に掲載の、

「ヤオイ・イズ・アライヴ わかりたいあなたのための、やおいマンガ・マップ」

という論考や、過去のブログ
http://mangalove.seesaa.net/article/35085516.html
でもふれた、

「マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」(『文化の社会学』佐藤健二・吉見俊哉[編]、有斐閣)。

などがあります。
(あ、でも『ユリイカ』2006年1月号は、青土社ではいま品切れなんですね。しかしamazonでは在庫有り!!見逃していて、欲しい方は今がチャンス!!)





もともと私は『サルまん』の大ファンでありますが、こんな強力ブレインが投入された『サルまん2.0』、どうなるのか……ドキドキしながら待ちたいと思います……!!


ユリイカ 2007年6月臨時増刊号 腐女子マンガ大系

青土社 (2007/06)
売り上げランキング: 5238
ユリイカ 2006年1月号 特集 マンガ批評の最前線

青土社 (2005/12)
売り上げランキング: 190145


文化の社会学
文化の社会学
posted with amazlet on 07.08.16
佐藤 健二 吉見 俊哉
有斐閣 (2007/03)
売り上げランキング: 36070
posted by 川原和子 at 16:21| Comment(0) | TrackBack(1) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月03日

韓国ネット書店で、日本のBL作家のサインを

 韓国の漫画コラムニスト・宣政佑(ソン・ジョンウ)さんに教えて頂いたのですが、最近韓国のネット書店で、日本のBL作家のサイン色紙を、韓国の読者にプレゼントする、というイベントをやっているそうです。



今回教えて頂いたネット書店・リブロさんでサイン色紙を提供されている作家の方は、
門地かおりさん梅太郎さん、そして、西田東さん、というメンバーだそうです。

http://www.libro.co.kr/Event/Generate/2007/06/Comic_Sign/Event_Sub02.aspx


私は韓国語はわからないんですが、宣さんによると、梅太郎さんはメッセージ以外にもそれぞれの作品のタイトルやキャラクター名まで書いておられるんだとか。
ナルホド。


 宣さんは、今年の6月に京都で行われた、日本マンガ学会大会・二日目のシンポジウムで、パネラーの一人として参加もされた方です。
日本マンガ学会第7回大会
http://www.kyoto-seika.ac.jp/hyogen/newspage/index.html


★★★
ところで。


 宣さん(男性)とはとある研究会でお目にかかり、何度かお話しさせていただいていますが、とにかく日本のマンガについては、諸星大二郎からドカベンまで、すごい知識をおもちのお方です。


初めてお目にかかったのは昨年の2月でしたが、ちょうどたまたまその日、会場までの電車の中で尾崎南「BRONZE」を読んでいたので、なんとか自分の得意分野(?)に話題をもちこもうと、

「宣さん、尾崎南さんとか読まれます?」

と軽く伺ってみたところ、


「尾崎南さんは、同人誌の『独占欲』から入りました」


とさらっと答えられて驚愕。
軽い牽制球を投げたつもりが、もの凄い勢いで打ち返されて顔面直撃!!って感じでした。
げふッ(吐血)。



なにしろ、日本語はマンガで覚えた(!!)、とおっしゃる宣さん。
いつも、流ちょうな日本語のメールをいただいております………(ありがとうございます!)。



「一体何冊マンガをもってらっしゃるんですか?」
「1000冊や2000冊じゃないですよね?」

と伺うと、

「日本で一番多いとき、古本屋でまとめて1100冊(!!)買ったことがありますから、もっとありますね」

とあっさりおっしゃったのにも、ド肝をぬかれました。
た、単位が違う…!!


日本と韓国という距離をものともしない日本のマンガに対する広い目配り、そして濃い男性でもなかなかフォローしきれないと思われるBL・やおい系まできちんと読まれていて、本当にすごい!と感嘆しました。
「うッ…!!(ゴシゴシと目をこすりつつ)宣さんが…大きく見える…!!」(←番長マンガ風)ってかんじでしたよ…。
そんな宣さんとマンガの話をしていると、外国の方と話していることをしばしば忘れてしまうのでした……。


そんなわけで、私はひそかに宣さんのことを「マンガ超人」とお呼びしています。
すごいぜ、宣さん!!
そして、貴重な情報をありがとうございました!!
posted by 川原和子 at 08:27| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月30日

西田東『天使のうた』1巻、発売!

 みなさま!!


BL(ボーイズラブ)というよりむしろOL(オッサンラブ)界の旗手、との呼び声も高い(どこでだ)、西田東先生の新刊、『天使のうた』1巻が発売されましたよー!!
連載では初の、海外が舞台のお話ですね。
私もさっそく買いに走りましたとも!!


あいかわらず、「あとがきマンガ」がおかしいです。
今回は、「エッチシーンが描けない!」という悩みについてのマンガ。
「描けない」理由は、


「ただでさえデッサンが危ういのに2人いっぺんに」
「しかも絡みは難しい!」



…………に、西田先生……。
ぶっちゃけておられますね………。
そんな正直な先生が……好・き……。



……さあ、皆さんも本屋へダッシュ!!



posted by 川原和子 at 19:50| Comment(4) | TrackBack(1) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月25日

「腐女子マンガ大系」重版!!

ジャーンジャーン(ドラの音)。

みなさま!!
6/12に発売になりました、ユリイカ臨時増刊「腐女子マンガ大系」、みなさまのおかげで、このたびめでたく重版となりました〜!!
http://www.seidosha.co.jp/index.php?reprint

ありがとうございますー!!
入手できない!と歯がみしておられた方がいらっしゃいましたら、重版直後の入手しやすくなっている今この機会に是非、お求めになってみて下さいませ〜!!


★★★
ちなみにわたくしの周辺では、この本を購入してくれた男性から、

「店員が訊くより先に『カバーかけてください』と言ったのは初めてです!」

という恥じらいの声をいただいたり、

「図版がちょっとスゴいので、通勤電車では後ろに人に立たないで欲しい…

というゴルゴ13のような感想をいただいたりしております。



 また、某マンガ関係の場所で知り合ったとあるナイスミドルのおじさまは、酒席とはいえ、初対面なのに「腐女子マンガ大系」をゴーインにお見せして知らなくてもいいやおい知識を披露してしまった私の無礼にお怒りにもならず、「なんと寛大なお方…」と感激していたところ、後日、

「川原さんにユリイカ腐女子特集号の刺激的な画像をみせていただいたおかげで、何かにすっかり目覚めてしまいまして翌日、帰りにさっそくユリイカ特集号を買いました」

という趣旨のステキなメールをいただき、……嬉しいような……手折ってはいけない花を手折ったような…複雑な気持ちになったりしておりますよ……!!


そんなユリイカ増刊「腐女子マンガ大系」ですが、わたくしの「やおい心をくすぐるもの 妄想という名のプチ創作」という論考も載っておりますので、未読の方でご興味のある方は、よろしかったらご覧になって下さいませ…!!

★★★
 ちなみに、この論考を書くために、現代マンガ図書館に行って、本宮ひろ志先生の『男一匹ガキ大将』愛蔵版を12冊積み上げてムンムンと読みふけっていたところ、

「あれ?川原さんじゃないですか?」

と声をかけられました。
ハッと顔をあげると……し、知り合いの編集者さんでした……。

「何してるんですか?」

とシンプルなご質問をいただきましたが、

「『男一匹ガキ大将』を読んでます!」

としか答えようがなくて………あのときは、すみませんでした……!!(私信)



そんなわけで、えーと、さまざまな反響をよびつつ、発売中であります!!
よろしくお願いいたします!!


ユリイカ 2007年6月臨時増刊号 腐女子マンガ大系

青土社 (2007/06)
売り上げランキング: 461
posted by 川原和子 at 23:31| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月27日

ちゃんとしよう。

 ここのところの気温の乱高下も手伝ってか、体調が微妙だったので、指圧へ。
はぁ〜効く〜、と思って帰ってくると、あらー。
すごいスッキリしてました。


うん、やっぱり体の調子って大事だよね、とここのところの不摂生を大反省。


そしてふと、西田東の『彼の肖像』(新書館)のセリフを思い出しました。


野心家の新進画家である麻生。
名のある画家に弟子入りして取り入ることを画策したり、いろんな計略をめぐらせるけれど、それらはすべて、基盤を持たない自分が絵を描いていくことへの情熱ゆえ。

自分には絵だけでいい。面倒な欲求を満たす必要のある体なんか、なくなってしまえばいい、
「右手と目だけの生き物になれたらな」
「ただ絵を描いていられたら」

と言う麻生の言葉を聞いて、ヘタレお坊ちゃん画家の夏樹が言うのが、こんなセリフ。



……俺にはよくわかんねえけど
あんたの絵
何か凄く訴えかけてくるものは感じたよ

……あれはメシ食ってクソしてる人間にしか描けないよ


★★★★★
うん。
やっぱりメシとか……とか、そういう体のことは、大事だ。
ガタがこないとなかなか意識できないけど、ガタが来る前に、なるべく意識していこう、と思いました。



彼の肖像
彼の肖像
posted with amazlet on 07.04.27
西田 東
新書館 (2004/07/30)
売り上げランキング: 108634

posted by 川原和子 at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月10日

最近、ぐっときた(BLの)オビ

 今週の『週刊アスキー』の女子ページ、「キュン死に寸前!」。
BL(ボーイズラブ)のオビについてのお話でありました。

オビってあの、本に巻いてある、あおり文句が印刷されたり推薦文が書かれたりしているアレです。
オビ、楽しいですよね。
本を選ぶときの参考になるし、けっこうオビにひかれて買っちゃったりします。



 わたくしが最近一番ぐっときたBLのオビのあおり文句は、


「いいかクソガキ 戻れねぇ年なんだ」


でした。
ちなみに『くいもの処 明楽(あきら)』(ヤマシタトモコ 東京漫画社)のオビ。
くいもの処明楽

居酒屋『くいもの処 明楽』の店長、明楽(32)はある日、バイト店員の鳥原(26)にマジ告白され動揺。
店長とバイト。男同士。32歳と26歳。
男同士の6歳差はデカい。
鳥原の告白を「ガキのたわごと」とかわそうとする明楽と、動じない鳥原。
二人の関係はどうなる?…というお話。


地味めの表紙で、内容も大きな事件が起こるわけではないのですが、とても面白かったです。
ヤマシタさんは、会話がうまいなぁ。
キャラクターに日常の言葉で気持ちを語らせるので、するりと世界に入っていけます。

あと、この本に収録されたかきおろし短編「リバーサイド・ムーンライト」はなんと、イケメン(27)が太めの年上同僚(30…だが、見た目38くらいのクマさんタイプ)に恋してしまう、というお話。
たった8ページの作品ですが、うーん、美形同士が暗黙のお約束のBLで、これってけっこう新機軸では??
と新鮮でした。


ヤマシタトモコさん、これが初コミックスだそう(←オビ情報)。
今後が楽しみです!



…それにしても、この「明楽」シリーズ、それぞれテーマ別の本に載ったようですが(「年の差カタログ」「制服カタログ」など)、第4話の掲載誌はなんと、「オヤジカタログ」
オヤジ…って、32歳ですか。
…私より…全然年下です。
いえ、わかっちゃいるんですけど…なんとなく……うなだれ気味になりました。
でも、30オーバーの主人公のセリフだからこそオビにぐっときたわけで、
問題なしです!!(←?)
posted by 川原和子 at 22:27| Comment(2) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月05日

京都の商店街を腐女子が救う?


というのが、トップページのタイトル。
そんなニュースが。


となりの801ちゃん:京都の商店街のマスコットが“腐女子”に? 思わぬまちおこし
(毎日新聞ニュースサイト「MNS毎日インタラクティブ」)




おお……まちおこし……ですか……。


『となりの801ちゃん』は、面白かったです。

posted by 川原和子 at 21:57| Comment(0) | TrackBack(1) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月04日

西田東『奪う男』、増刷決定!!

 キャー!!
嬉しいニュースです。


長らく事実上の絶版状態が続いていた、西田東氏の
『奪う男』(竹書房)
増刷が決定したそうです!!
う〜れ〜し〜い〜!!


ちなみに、ニュースソースは、ご本人のブログ。
●真剣なダイアリー(やきめし)


★★★
西田東さんといえば、過去、このブログでもまさにこの『奪う男』をとりあげて考察したりしております。
●2006年03月01日
【BL注意】愛がなくても生きてはいけるけど。〜西田東の驚天動地
http://mangalove.seesaa.net/article/13989948.html



そーなんです。
『奪う男』書店で注文しても「在庫ありません」ということで入手できない状態が続いたため、周囲の人に読んでもらいたくて古書店で定価の三倍くらいの額のものを入手して貸し出したりしていたのですが、めでたく増刷、ということで、そんな状況もこれで解消!!
増刷されたら、もちろん私もまた買って、さらに周囲に布教(笑)したいと思います。


『奪う男』に収録されてるお話はサラリーマンものが多くて、西田作品の特徴、

「地に足がついたフツーの男たちの、"愛"が優先順位第一位になる瞬間」

がはっきり感じられて、私はとても好きです。
市場に出回るのは3月下旬らしいのですが、すごーく楽しみです!!


★★★
このおめでたいニュースに便乗して、宣伝をば。
西田東さんといえば、私は一昨年のNIKKEI NETの女性向けサイト・スマートウーマンの連載
にて、『影あるところに』をとりあげさせていただいてます。

http://smartwoman.nikkei.co.jp/culture/lecture/lecture.aspx?id=20050101sb316sb

こちらも、ご興味のある方はぜひ、ご覧になってみて下さい。ませ。

posted by 川原和子 at 08:24| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月02日

「マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」

みなさま、「やおい」と呼ばれるジャンルをご存じでしょうか?
…って、ネットの片隅にあるわたくしのブログをわざわざ見に来て下さる方には、説明は不要かもしれませんが、念のため。

やおいとは、男同士の恋愛をテーマにした、女性向けのマンガや小説作品のこと。
ボーイズラブ(BL)、JUNE等と呼ばれることもあります。

そのジャンルに馴染みのある人には説明するまでもないと思いますが、知らない人には

「なんでまた、男同士のラブストーリーを、女の人が楽しむの??」

という疑問をもたれがちなジャンルでもあります。


この分野に関しては、直木賞作家・三浦しをんさんが、『シュミじゃないんだ』(新書館)という本で、ボーイズラブと呼ばれるマンガに関して熱く語っておられ、私もかつての日記でとりあげさせていただきました。
★2006年11月01日の日記
「三浦しをん『シュミじゃないんだ』発売!!」
http://mangalove.seesaa.net/article/26594141.html


一方、学問の分野でも、やおいについてさまざまな論考がなされるようになっています。
そんな中、やおいにとっては大変重要でありながら、その対象の膨大さから、なかなか語るのが大変なマンガ同人誌を主題とした力作が登場しました!!
ジャーンジャーン(←ドラの音)。

それが、金田淳子氏による「マンガ同人誌 解釈共同体のポリティクス」です(『文化の社会学』佐藤健二・吉見俊哉[編]、有斐閣)。


この論考が納められている本の書名が『文化の社会学』であるとおり、学問分野にはうとい私には聞き慣れぬ用語がしばしば用いられています。
にもかかわらず、文意が大変伝わりやすく、読み進めていくなかで、同人誌というものをどのように位置づけるのか、どのような意味があるのか、ということに関して明晰な言葉が与えられていくさまに、刺激を受けます!!受けまくります!!(←ホントにわかってんのか、というわたくしへのツッコミはこの際、おいておいてください!!ええ、そのへんの棚の上にでも!!)


内容は1〜4に分かれていますが、「1 同人誌という領域」では、これまでのやおい論の先行研究を検討し、論調の変化にもふれています。
巻末の引用・参照文献一覧とあわせて、やおい論を概観したい人には必読だと思います。


私個人としては、「2 表現のなかの交渉」における、やおい同人誌は、「女性だけの解釈共同体」である、という指摘には、

「解釈共同体!おお、なんと実感そのものの言葉…!!」

と感動しました。
また(以下引用)、

> やおい論のなかには、やおいを性からの逃避、あるいは
> 女性嫌悪とみなすものがあった。しかし厳密にみれば、
> やおいにおいて回避されているのは、性や女らしさでは
> なく、女性を性的対象としてみる(性的対象としてしか
> みない)まなざしではないだろうか。(p.177)

という指摘には、ちょうど今アレコレ考えていた部分に答えをもらったようで、思わず膝を打ちました。
な〜る〜ほ〜ど〜!!
というかんじです。


「3 同人たちの市場」では、場を共有しない人には伝わりにくい、同人誌という市場の価値観を浮かび上がらせ、
「4 見えない彼女たち」では、「解釈共同体」である同人(おたく)女性たちが、その趣味を共有しない人に対してはおたくであることを明かさず、また、おたくっぽく見えないように気をつかっている、その構造自体について言及しています。


全編、先行研究をふまえつつ、「今」の問題をすくいあげている、意欲的な論考だと思います。
学問の言葉で書かれているのですが、
面白くってためになる!…という講談社のキャッチフレーズが脳裏によぎる、たいへん刺激的かつ面白いこの文章。


やおい、BL論分野に興味がある方には、強力にオススメいたします!!

『文化の社会学』
http://www.bk1.co.jp/product/2760277
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/31852264
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=R0197677
※amazonは在庫切れみたいです。むむむ。amazonも再入荷したようです!!スバラシイ!!


★★★★★お詫びと訂正★★★★★

※あ、あのう……(もじもじしつつ)
すいません、間違えました。
第二段落、

>やおいとは、男同士の恋愛をテーマにした、女性向けのマンガや小説作品のこと。
>ボーズラブ(BL)、JUNE等と呼ばれることもあります。

ってなってますが……
誰が呼んだか、ボーズラブ。
って、誰も呼んでねえ〜!!
呼ばれてねえ〜!!


いや、ないこともないのですよ、ボーズラブ。
樹生かなめ先生の『極楽浄土はどこにある』とか…



…って、そういう話じゃありません!!


ボーズラブ→ボーイズラブ
に、(3/3に)「ギャー!」と叫びつつ…謹んで訂正させていただきました。


ちなみにこのミスを教えていただいた方には、

「大奥第二巻になっております。」

とのステキなご指摘を受けました……。
テヘッ★(ミスを笑ってごまかしてみる)
…ホントに……申し訳ありませんでした……。
posted by 川原和子 at 23:47| Comment(8) | TrackBack(3) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月01日

三浦しをん『シュミじゃないんだ』発売!!

 書店に行ったら、直木賞作家・三浦しをんさんの『シュミじゃないんだ』(新書館)というエッセイ集を発見。


なんとこの本、世界の中心で「ボーイズラブが好きだ!」と叫び続けている三浦さんが、4年半にわたって『小説ウィングス』誌上で、ボーイズラブをテーマに書かれたエッセイの連載をまとめたもの。

 え、私?
ええ、もちろんすかさず買いましたとも!!!
読むのがとっても楽しみです。


 三浦しをんさんといえば、9月に発売された語シスコの単行本『おとなの時間』(マガジン・マガジン)の推薦文を書かれていました。
『おとなの時間』と『こどもの時間』、同時2冊発売ということで書店でもなかなか目立っていたので、見かけた方も多いかとは思いますが、この三浦さんの推薦文がまたスゴかった。



「もしチン棒があったら、喜びのあまり振り回す!もしBLの神がいるなら、全裸で感謝の舞を捧げる!語シスコの作品には、私が漫画に求めるすべてがある(後略)」


……この推薦文…まさに、


乙女の漢気(おとこぎ)

にあふれた檄文、と言えましょう…ッ!!


 直木賞という大きな栄誉を手にされながらも、守りに入るどころかますますアグレッシブに己の愛する作品を激しく賞賛してやまぬ三浦殿の姿勢に、それがしもボーイズラブ愛好家のはしくれとして、深く心動かされた次第であります!!

…って、なぜ必要以上に男らしい口調になってるのか自分でもよくわかりませんが、えーと、とにかく三浦さんの『シュミじゃないんだ』、発売中です!!
ご興味のある方は、見逃されませんよう!!


ちなみにタイトルの由来は、

「自分にとって漫画を読むのは、趣味なんて甘ったるいもんじゃなくて、「生きる」というのと同義語だ!!」

という三浦氏の熱き心の叫びです。
……さすがです!!
posted by 川原和子 at 22:20| Comment(2) | TrackBack(1) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月17日

呉智英さんの西田東に関するコメントが

いま発売中の『ダ・ヴィンチ』9月号に、「このBL(ボーイズラブ)作品に芥川賞を!」という座談会が掲載されています。

新・直木賞作家(おめでとうございます!)三浦しをんさん、呉智英さん、山本文子さん(『やっぱりボーイズラブが好き』の編者)、そして漫画家の新井祥さん、新井さんのアシさん、編集者の方々、といったメンバーによる「芥川賞に値するようなBL作品とは?」というユニークな視点からの選考会で、とても興味深く読ませていただきました。


個人的には特に、大好きな西田東さんの作品に関する呉智英さんの、


「老眼鏡をかける姿がセクシーだというセリフが何より衝撃的だった(笑)」

というコメントを拝読できただけでも「ありがたやありがたや(合掌)」という感じです。
…自分でもなにがどうありがたいんだか、なんかよくわかりませんが。

でも、ありがたいんですよ!!とにかく!!(←意味もなく逆ギレ)


ご興味のある方は、お見逃しなく!!
posted by 川原和子 at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月13日

『やっぱりボーイズラブが好き』

先週土曜日(6/10)の「出没!アド街ック天国」(テレビ東京)では、池袋東口・「乙女ロード」がとりあげられてましたね。
ご覧になりましたか?
http://www.tv-tokyo.co.jp/adomachi/060610/index.html


乙女ロードとは、池袋東口のある部分に女性向け同人誌やグッズのお店が集中していることから、そういった趣味の乙女たちの集う道、ということでまんが情報誌・『ぱふ』編集部がそう呼んだのが始まりとのこと。最初聞いたときは「う〜ん、ニュアンスが伝わる、うまいネーミングだなあ」と思わず感心したのですが、最近では、同人ショップの他にも、執事喫茶・乙女喫茶等もできて、なにかと注目のスポットとなっているようです。


さてさて、そんな乙女ロードにあるお店で扱われているのは、「やおい」とか「ボーイズラブ」と呼ばれる、「女性向けの、男性同士のラブストーリー」ものの同人誌や本、CD、ゲームなどです。

私もこの分野にはひとかたならぬ関心を寄せておりますが、なにせ無限に広がるBL宇宙。…と言っても過言ではないほど、たくさんの雑誌が出ていてかな〜り裾野が広く、資金と時間に限りのある身の上では、なかなか全容を把握できないなあ…ともどかしく思っておりました。

しかし!!
そんな中、なんと昨年末に、すばらしいガイドブックが登場しました!
それが、この本です。


『やっぱりボーイズラブが好き』(山本文子&BLサポーターズ、太田出版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4778320018/qid=1139887447/


なんといっても、あまりの作品数に、かなり好きな人でもともすれば、自分の好みの作家さんのもの以外はなかなか押さえづらい、ということになりがちなこの世界。
しかし、BLやマンガ全般に造詣の深いライター・山本文子さんを中心としたメンバーによる大変幅広い目配りに基づき、かなりバランスよく主要な作品を網羅して紹介しておられるところが、素晴らしいのです!!
偏った好みに基づいた読書ばかりで、全体を見渡せてなかった不甲斐ない私も、この本で「おお〜、これはチェックせねば!」と教わるところ大、でありました。


そして、ぜひ注目して欲しいのが、この本に収録された、料理研究家の福田里香さんと山本文子さんの対談です。
福田里香さんは、ここで大変興味深い発言をいくつかされています。その一つは、「62年生まれ」という概念の提出です。

ご自身も1962年生まれの福田さんは、62年生まれを、「24年組のマンガをリアルタイムで読んで育った世代」「そんなにマンガ雑誌がなかった時代」なので「読もうと思えばほぼ全部制覇できた」と言い、具体的な62年生まれの作家として、

多田かおる(王道少女マンガ出身)、
岡崎京子(エロ雑誌出身)、
西村しのぶ(劇画村塾出身)

らをあげて「女子で多様な出自の作家が出始めた世代」としています。


そして、えみくりを「同じものを見てきたはずの人が、想定の範囲外のことを出してきた」という存在として評価しているのが、二つ目の興味深い点です(福田さんは、「(一般に評価の高い)岡崎京子さんが大島弓子さんとかを読んで男女の性を赤裸々に描くというのは、わかりやすいというか…想定の範囲内(笑)」(P.196)と発言されています)。


ちなみに、「えみくり」とは、マンガを描くえみこ山と、小説を書くくりこ姫という女性二人のサークル。

福田さんによると、えみくりは自分たちの同人誌を、“男と男のりぼん”と謳っておられるそうです。その『りぼん』とは、陸奥A子や田渕由美子の活躍した「乙女ちっく」時代の『りぼん』のことで、手をつないだだけできゅんとするような物語を男と男でやる、と宣言したところに、えみくりの「突然変異的な発想の飛躍」がある、と福田さんは肯定的に評価されています。また、“男と男の『りぼん』で、ギムナジウム(寮)で、関西弁”という、要素のシャッフル具合も独特、と指摘。そして、えみくりの同人誌の編集能力の高さと、その下敷きになったサブカルチャーの流れ(『ビックリハウス』など)にも言及されています。



「男と男の『りぼん』」!!
そうか、そういうコンセプトだったのかー!!

…と、BLの歴史にけっして詳しいわけではないわたくし、目からウロコでした。


どんな世界もそうだと思いますが、ボーイズラブ世界にもさまざまな作品があります。
で、とても大雑把な言い方ですが、女性向けに「男同士の愛」を描いた作品も、歴史的に変遷がありまして、初期の『JUNE』と呼ばれた世界には独特の美学があって、そこから入った人にとっては、その後の「男同士の、ライトなラブラブ世界」にちょっと抵抗がある、というのは大変よくあるじゃないかな、と思います。

かく言う私も実は、世代的には(1968年生まれ)、やや「JUNE系」びいき(?)なところがあって、正直なところ、ラブラブボーイズラブに対しては、ほんのちょっと心理的な距離があるんですが(でも『JUNE』どっぷり世代でもないという微妙な立ち位置です)、福田さんと山本さんの対談におけるえみくり評価や、山本さんの<耽美的なものより、元来少女まんが好きなこともあって、乙女ちっくよりなときめき・せつなさ重視の男の子同士の関係が読みたいと思っていた>という発言は、共感できる点もあり、大変興味深かったです。
つまり、どういう必然性やねらいがあって、ライトなボーイズラブが生まれてきたのか、というところが少し解明された気がして、非常に面白かったのですね。


また、福田さんは、「女性二人の仕事」のあり方として、えみくりの、どっちがマネージャーというわけでもない成り立ち方にも注目されています。
これって、同人的なユニットを評価する視点の一つとして、かなり重要な指摘のように思います。
私も、「女性の仕事の形態」としても、とても興味深い指摘だな、と感じました。


そんなわけで、いろんな意味で、大変示唆に富んだ指摘のつまった対談です。


またこの本には、嗜好・世代もバラバラのBL好き女子5名による覆面座談会もあって、こちらも大変面白い。ただ、惜しむらくはこの座談会、参加者の年齢がはっきり書かれていないんですよね。

読者体験を語る場合、年齢はとても大きな基準になるので(というような指摘は、友人のマンガ研究者・ヤマダトモコさんから伺って、私も「そうだな〜」と思ったのですが)、できれば(覆面でもあることだし)ゼヒ、年齢を出して欲しかったな〜と、欲張りなことを思ってしまいました。
って、バラエティに富んだ出席者による内容が、とても面白くてためになる座談会なだけに、つい欲が出てしまいました。すいません。


これらは、ガイドブックに収録の対談や座談会、ということで、なかなか目にとまりにくいかと思いますが、見逃されるのはもったいない!!
このジャンルにご興味のある方は、ぜひご一読をおすすめする次第です。


てなわけで、私も、この本を片手に、今後も地道に(もちろん楽しみに)、いろいろBLを読んでいきたいと思っております。
俺はようやくのぼりはじめたばかりだからな
このはてしなく遠いBL坂をよ…

未完



ということで、なにとぞひとつ、よろしくお願いいたします(何を?)。
posted by 川原和子 at 00:04| Comment(4) | TrackBack(3) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月01日

【BL注意】愛がなくても生きてはいけるけど。〜西田東の驚天動地

注)今回は、ボーイズ・ラブとよばれる分野の作家・西田東さんについての考察です。
この分野が苦手な方は、心の準備をしてお読み下さいませ。
…まあ、そんな方、私のブログを読んでくださる方には少ないと思いますけど…。念のため。



「男っていうのは、女が思っているよりずっと社会的な生き物だよ」

「少女漫画の編集をして思ったことなんだけどさ。本当に女の子っていうのは、あんなに年中、愛だの恋だのそんなことばっかり考えてるのかね」

これは、山本文緒の「少女趣味」という短編小説に出てくる台詞。主人公の中堅少女漫画家が、担当編集者の男性に言われる言葉だ。この短編は非常に優れた怖い話(「男をいたたまれない気持ちにさせる女の自己完結」の話って、怖くないですか…?)で、私にとってはもの凄く印象に残っている話。興味があるむきには是非一読をお薦めしたいです(「ブラック・ティー」角川文庫に収録)。

ところで、私もこの台詞には頷いた。
現実にはたいていの男にとっては、愛とか恋とかいうのは、たくさんある興味関心事の一つでしかないんじゃないだろうか。
少なくとも日本の大多数の社会人男性にとって、いくら恋愛至上主義の風潮がはびこっているとはいえ、おそらくは、仕事や趣味ほどには関心がない、というのが正直なところではないだろうか(古い考えか?)。

ボーイズ・ラブと呼ばれる「男性同士の恋愛をテーマとする、女性向け漫画・小説」という分野に出てくる男は、男といいつつ男ではない、という言い方がよくなされているが、私も何が違うって「男って、こんなに恋愛のことばっか考えてないよな〜」とよく思う(女でさえ最近はしばしば、恋愛のことばっか考えてるわけじゃないというのに)。

もちろんマンガは必ずしも現実そのもののリアルな反映である必要は全然ないし(むしろ夢的な要素が強く入り込みやすいジャンルだと思う)、「恋愛のことばかり考えてるようなキラキラした美形男性同士の愛が描かれている作品」というのも、娯楽としてはアリだ、と思う。ただ、年齢のせいかどうも今ひとつそういう今どきな作品にノりきれなかった私が、最近ずっとハマっている「ボーイズ・ラブ作家」、それが西田東である。


西田東はボーイズ・ラブ世界ではとびぬけてリアルな「フツーの男」を描く作家だと思う。極端な美形もあまり出てこないし、登場人物の年齢も社会人が大半で、「ボーイズ・ラブ」ジャンルの作家にしてはかなり高め。って言うか、全然「ボーイ」じゃないな(そういえば「彼の肖像」という作品が連載時のキャッチフレーズが「ほげほげメンズ・ラブ」だったのには笑った。「ほげほげ」って)。

登場人物は中年以降の「オヤジ」も多くて、しかもBLによくある「オヤジという設定だが内面は女の子」とか「オヤジという設定だが中身は若造」ということもなく、口調などもちゃんとオヤジっぽい。そんな登場人物が織りなす物語なんだけど、でもやっぱりこれは基本的に「女性向け」のラブ・ストーリーだなあ、と思う。

私が強くそれを感じ、かつ最も驚いたのが、「奪う男」という作品(同名の単行本に収録。竹書房刊)。

内容は大体、こんな話。
主人公の本多薫は営業マン。
その本多の前に、高校大学の同窓生・樋口が配属される。かつてバスケ部のレギュラーや部長の座、そして彼女まで、優秀な樋口は昔からいつも本多のものを奪っていった。その樋口がまたもや自分の目の前に現れ、今度は主任の立場まで脅かそうとするのか?と戦々恐々たる本多。

「なぜおまえはオレのものばっか欲しがる?」とキレる本多に「いつもマイペースで涼しい顔のあんたに、死ぬほど欲しいものが手に入らない苦しさなんてわからない!!」と言い返すエリートの樋口。そしてついに、職場に後から入ってきた樋口に役職を奪われることが決まった本多は、自棄になって樋口の自宅を訪ね、彼をおそう。

しかし、無抵抗の樋口に「いやがるのを屈服させたかったのに」と帰ろうとする本多に、樋口が「何もくれないなら、せめてコートくらいくれよ!」と思いを告白。いっぽうの本多も「なんだこんなコートなんか…おれを全部やるよ」とこたえ(!!)なんと二人はめでたく結ばれるのです。しかも、その後も上司となった樋口の下で本多は補佐をし、なんだかラブラブな雰囲気…というお話。

いや、この展開にはびっくりした。これぞ、ボーイズ・ラブマジック!と思いました。

繰り返しになるが、西田東の描く男たちは、そこらにいそうなサラリーマンだったりお兄ちゃんだったりする。
ふだんは愛だの恋だのばっか考えてるわけでもなさそうで、ちゃんと仕事して出世にもこだわったりする。

そんな男たちが、ギリギリのところでは何よりも(ときには男としての存在基盤であろう地位よりも)"愛"を優先するのだ。
そして、なんと愛し合った二人は、同じ会社で片方が片方の上司、という「日常的に(←重要)明らかに片方が優位にある、ということを誇示し続ける(され続ける)立場」になっても、それまでのこだわりを捨ててラブラブな関係を続けることが出来てしまうのだ。現実的に考えれば、部下になってしまう本多が、プライドをちくちくと刺激され続ける日々だと思うが、愛の力で、それはまったくとるにたらない問題になってしまうのだ。

…あ、ありえなくないですか?

これって他がなまじ比較的リアルなだけに、急転直下のすごいファンタジーじゃないだろうか。「奪う男」の「愛が、男としての社会性(=地位)を超える」という展開は、他が割にリアルなだけに、その「ありえないマジック」が際だったように思う。

もちろん、この「ありえねー」は、私にとっては「褒め言葉」だ。


ちゃんと地に足着いた男たちの、"愛"が優先順位第一位になる瞬間。


西田東の描く話の醍醐味の一つはそこにあり、そういう話を(ファンタジーとわかっていても。いや、ファンタジーだからこそ)私は楽しむ。そして、それを「娯楽」にできるのは、ひょっとしたら私が女だからかもなぁ、とも思う。たいていの男性にとっては、むしろ「悪夢のような怖い話」なんじゃないだろうか。これって、古い考え方なんでしょうか(むろん、西田作品の全部がそういう作品だというわけではなくて、上司と部下、といった最初から対等な立場ではない男達の話も多いので、むしろ「奪う男」に特異な点かもしれないんですけど)。

西田東さんは「奪う男」のあとがきマンガ「まんがみち」で、「やはり美しいのはカオとゆーよりホモぎりぎりの愛憎関係ですか」とタバコをふかすオヤジ(ホントに全然美形じゃないフツーのオヤジ)の絵にかぶせて書いているが、その「ホモぎりぎりの愛憎関係」というところに濃密な何かを感じる、というところが、古いタイプのマンガ読みである私の琴線に触れるのかも。
それって愛じゃん、と。

たしかに西田さんの絵はお世辞にも達者とはいえず、とても走りそうもない車とか、目玉焼きみたいな涙目とか、ものすごい絵がいっぱい出てきます。スーツのボタンもあったりなかったり。でもでも、そんなことが問題にならないくらい(いや、問題ですけど)、キラキラした美形以上の魅力を私は感じるのだ。

いや、もちろん美形もいいんだけどね。好きなんだけどね。ホントに。
posted by 川原和子 at 19:12| Comment(9) | TrackBack(2) | BL | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする