先週土曜日(6/10)の「出没!アド街ック天国」(テレビ東京)では、池袋東口・「乙女ロード」がとりあげられてましたね。
ご覧になりましたか?
http://www.tv-tokyo.co.jp/adomachi/060610/index.html乙女ロードとは、池袋東口のある部分に女性向け同人誌やグッズのお店が集中していることから、そういった趣味の乙女たちの集う道、ということでまんが情報誌・『ぱふ』編集部がそう呼んだのが始まりとのこと。最初聞いたときは「う〜ん、ニュアンスが伝わる、うまいネーミングだなあ」と思わず感心したのですが、最近では、同人ショップの他にも、執事喫茶・乙女喫茶等もできて、なにかと注目のスポットとなっているようです。
さてさて、そんな乙女ロードにあるお店で扱われているのは、「やおい」とか「ボーイズラブ」と呼ばれる、「女性向けの、男性同士のラブストーリー」ものの同人誌や本、CD、ゲームなどです。
私もこの分野にはひとかたならぬ関心を寄せておりますが、なにせ無限に広がるBL宇宙。…と言っても過言ではないほど、たくさんの雑誌が出ていてかな〜り裾野が広く、資金と時間に限りのある身の上では、なかなか全容を把握できないなあ…ともどかしく思っておりました。
しかし!!
そんな中、なんと昨年末に、すばらしいガイドブックが登場しました!
それが、この本です。
『やっぱりボーイズラブが好き』(山本文子&BLサポーターズ、太田出版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4778320018/qid=1139887447/なんといっても、あまりの作品数に、かなり好きな人でもともすれば、自分の好みの作家さんのもの以外はなかなか押さえづらい、ということになりがちなこの世界。
しかし、BLやマンガ全般に造詣の深いライター・山本文子さんを中心としたメンバーによる大変幅広い目配りに基づき、かなりバランスよく主要な作品を網羅して紹介しておられるところが、素晴らしいのです!!
偏った好みに基づいた読書ばかりで、全体を見渡せてなかった不甲斐ない私も、この本で「おお〜、これはチェックせねば!」と教わるところ大、でありました。
そして、ぜひ注目して欲しいのが、この本に収録された、料理研究家の福田里香さんと山本文子さんの対談です。
福田里香さんは、ここで大変興味深い発言をいくつかされています。その一つは、「62年生まれ」という概念の提出です。
ご自身も1962年生まれの福田さんは、62年生まれを、「24年組のマンガをリアルタイムで読んで育った世代」「そんなにマンガ雑誌がなかった時代」なので「読もうと思えばほぼ全部制覇できた」と言い、具体的な62年生まれの作家として、
多田かおる(王道少女マンガ出身)、
岡崎京子(エロ雑誌出身)、
西村しのぶ(劇画村塾出身)
らをあげて「女子で多様な出自の作家が出始めた世代」としています。
そして、えみくりを「同じものを見てきたはずの人が、想定の範囲外のことを出してきた」という存在として評価しているのが、二つ目の興味深い点です(福田さんは、「(一般に評価の高い)岡崎京子さんが大島弓子さんとかを読んで男女の性を赤裸々に描くというのは、わかりやすいというか…想定の範囲内(笑)」(P.196)と発言されています)。
ちなみに、「えみくり」とは、マンガを描くえみこ山と、小説を書くくりこ姫という女性二人のサークル。
福田さんによると、えみくりは自分たちの同人誌を、“男と男のりぼん”と謳っておられるそうです。その『りぼん』とは、陸奥A子や田渕由美子の活躍した「乙女ちっく」時代の『りぼん』のことで、手をつないだだけできゅんとするような物語を男と男でやる、と宣言したところに、えみくりの「突然変異的な発想の飛躍」がある、と福田さんは肯定的に評価されています。また、“男と男の『りぼん』で、ギムナジウム(寮)で、関西弁”という、要素のシャッフル具合も独特、と指摘。そして、えみくりの同人誌の編集能力の高さと、その下敷きになったサブカルチャーの流れ(『ビックリハウス』など)にも言及されています。
「男と男の『りぼん』」!!
そうか、そういうコンセプトだったのかー!!
…と、BLの歴史にけっして詳しいわけではないわたくし、目からウロコでした。
どんな世界もそうだと思いますが、ボーイズラブ世界にもさまざまな作品があります。
で、とても大雑把な言い方ですが、女性向けに「男同士の愛」を描いた作品も、歴史的に変遷がありまして、初期の『JUNE』と呼ばれた世界には独特の美学があって、そこから入った人にとっては、その後の「男同士の、ライトなラブラブ世界」にちょっと抵抗がある、というのは大変よくあるじゃないかな、と思います。
かく言う私も実は、世代的には(1968年生まれ)、やや「JUNE系」びいき(?)なところがあって、正直なところ、ラブラブボーイズラブに対しては、ほんのちょっと心理的な距離があるんですが(でも『JUNE』どっぷり世代でもないという微妙な立ち位置です)、福田さんと山本さんの対談におけるえみくり評価や、山本さんの<耽美的なものより、元来少女まんが好きなこともあって、乙女ちっくよりなときめき・せつなさ重視の男の子同士の関係が読みたいと思っていた>という発言は、共感できる点もあり、大変興味深かったです。
つまり、どういう必然性やねらいがあって、ライトなボーイズラブが生まれてきたのか、というところが少し解明された気がして、非常に面白かったのですね。
また、福田さんは、「女性二人の仕事」のあり方として、えみくりの、どっちがマネージャーというわけでもない成り立ち方にも注目されています。
これって、同人的なユニットを評価する視点の一つとして、かなり重要な指摘のように思います。
私も、「女性の仕事の形態」としても、とても興味深い指摘だな、と感じました。
そんなわけで、いろんな意味で、大変示唆に富んだ指摘のつまった対談です。
またこの本には、嗜好・世代もバラバラのBL好き女子5名による覆面座談会もあって、こちらも大変面白い。ただ、惜しむらくはこの座談会、参加者の年齢がはっきり書かれていないんですよね。
読者体験を語る場合、年齢はとても大きな基準になるので(というような指摘は、友人のマンガ研究者・ヤマダトモコさんから伺って、私も「そうだな〜」と思ったのですが)、できれば(覆面でもあることだし)ゼヒ、年齢を出して欲しかったな〜と、欲張りなことを思ってしまいました。
って、バラエティに富んだ出席者による内容が、とても面白くてためになる座談会なだけに、つい欲が出てしまいました。すいません。
これらは、ガイドブックに収録の対談や座談会、ということで、なかなか目にとまりにくいかと思いますが、見逃されるのはもったいない!!
このジャンルにご興味のある方は、ぜひご一読をおすすめする次第です。
てなわけで、私も、この本を片手に、今後も地道に(もちろん楽しみに)、いろいろBLを読んでいきたいと思っております。
俺はようやくのぼりはじめたばかりだからな
このはてしなく遠いBL坂をよ…
未完
ということで、なにとぞひとつ、よろしくお願いいたします(何を?)。